■昭和
昭和、それはノスタルジックで人情感覚の濃い時代だ。
戦後復興と高度経済成長の交錯した頃のはなし。
「不安」と「希望」に溢れた時代でもある。
家にちょっとした大きさの茶色の「甕」があった。
そいつは冬の間、台所の流し台の横にポンと座っていた。
たっぷりと水が張ってある。
北国の冬は凍結による水道管の破裂が心配される。
寝る前に水道菅を元栓から閉めて水を落とし、管の中を空にして破裂を防ぐ。
水が凍って膨張する力はすごいものがある。
朝起きて、すぐに水道が使えないから、この「甕」が活躍するわけだ。
起きて真っ先に「甕」のところにいき、表面に薄く張った氷を柄杓の後ろで突く。
パリンと音ともに氷の表面に見事な穴が開く。
ぽっかりと開く穴は吉。小さいほど大吉だ。全体が粉々に散ってしまうときは凶。
小学1年のときのマイルールだ。
割れた氷の欠片を摘まんでぱりぱりと食べたあと、水を飲む。
超冷たい。冷たさが急行さながら、ヒューンと食道を通って、胃袋の形状が分かるほどに内蔵に浸みる。
「吉」だ。
寒い北国での朝の出来事。
ランドセルを背負って走る。毎日中身は同じだ、全ての教科書が入っている。
予習もしない。二行読みの技を身に着けたからだ。
次の行に目を通しながら前の行を読む。分からない文字を考える間ができる。
だから、毎日同じ中身で家ではランドセルを開ける必要がない。
子供の知恵。文字が小さくなった頃に失敗した(‘◇’)ゞ