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■ストーブ

 

まだ、環境意識の希薄な時代のことである。

 

そいつが真っ赤になるほど石炭を放りこむ。

 

各住戸には玄関ホールとつながる「石炭小屋」があった。冬の本格的な寒さが訪れる前に、そのセメントで仕上げられた小屋に外部口から石炭を蓄える。その外部口と別に玄関ホールには、数枚の板が下から重ねられ一つのはめ込み型の間仕切となっている。

 

日々、小屋に積まれた石炭の山を少しずつ取り崩し、その高さに応じて仕切板を1枚ずつ外し、出入口を低くする。こうして段階的に石炭を取り出す仕組みがあった。仕切の板が一番下段になる頃、春がやってくる。うまく体積計算されていた。

 

その小屋から石炭を運びだすのが私の役目だった。

 

ピカピカと黒光りした石ころだが、中には艶のない奴もいた。そいつは黒いダイヤに見えない。どうにも個人的に馴染めなかった。石自体にエネルギーが感じられないことが、火力の無さに通じて仕方なかった。

 

自分が運んだ石炭だから、そいつを容赦なくストーブに抛り(ほうり)込む。これでもかとばかりにストーブの肌を真っ赤にそめる。自分の顔も真っ赤だ。このとき煙突菅にふれると火傷するから注意が必要だった。

 

石炭ストーブの下にあるレバーを左右に振って、赤い灰を落として、そのなかに畑から引っこ抜いたジャガイモを放り込む。適当な時間に芋を裏返し、ホッカホッカに仕上げる。「焼きじゃが」の完成だ。

 

ちょっと指で押し潰して焼き加減を確認する。あまり長い時間灰の中に放置しておくと回りが硬く焦げて食べる部分が小さくなるため、頃合いが重要だった。そのホッカホッカのジャガイモをポケットにいれて(ホカロン( `・∀・´)ノ走り)、外に飛び出す。

 

モコモコで大きな南極犬ジローがいた山田呉服店の横を通って、海を見にいった。

 

波が恐ろしくゴウゴウと寄せては引いて、一瞬だが砂浜にその日の波紋を描く。

真っ黒な雲がわき上がったり、空がパープルに変わったりすると、走って家路につく。

もちろん、すでにジャガイモはない。

 

バターをつけるというのが、いつからだったか? 覚えがない(笑)。

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