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■流氷(海氷)

 

皆さんは「流氷が鳴く」事をご存知でしょうか?

 

冬こそオホーツク、言うまでもなく、流氷見学を意味した呼び込み表現だ。だが……。その流氷、海氷のこと。毎日、丘の上から眺めていると、そんな見学気分にはなれない。

ただただ、あたたかで優しい陽射しの春が待ち遠しい(💦)。

 

その鳴き声はもの悲しく、聞く耳を凍てつかせる重低音と高音の重なった音だ。

北の大地の厳しい冬。北風(シベリア降ろし)が強くなると、東樺太海流にのって、漁場を豊かにする春の栄養(プランクトン)をたっぷり含んでやつらが近寄ってくる。そのプランクトンが美味しい昆布を育て、その美味しい昆布を食べて美味しい雲丹ができあがる。流氷さま様。

 

時々、アザラシやキツネや鳥など、いくつもの生態系を伴って……。

 

小さい流(海)氷の塊がぶっつかり合いながら、濃度の高い塩水と氷片が上下対流し、潮間の中でゆっくり合体を繰り返し、氷の厚みが増していく。無造作にガッッツンとあたった氷片が四方八方に連鎖しつながる。もともとの小さい氷形が少しずつ海水を凍らせ巨大化する。

 

流氷と流氷が当たる音、接岸雪氷とのせめぎ合い、氷同士が重なり砕かれる音、上下の軋む、膨張してはバキーン、バーンと亀裂が走る音……。硬い塊の戦いは直線的・硬化的で柔らかさが見当たらない。

 

これが、ギー・ギギー、キシィー、ギシン、バキーンとなって、アチコチで同時に鳴る。この不気味な音が、丘の上の町には、風の音と重なり、さらに複雑な余韻を伴う音となって届く。

 

私には【キュォーン、ュォーン、ォーン、ン】という遠吠え的な音に聞こえてならなかった。【 ギー ギギー キシィー ギシン = キュォーン(余韻:エコー) 】

布団を頭まですっぽり被って音を無視する。

 

寒い夜は透明度が高い、空気がひんやり凍てつく、すべてが静止画の世界だ。音も良く通るが地上が低温のため音の上昇反射がなく地平を這うように風が運ぶ。結果、吹雪の雪原を通路として、地響きとなって民家に届くことになる。

 

その不気味さが、少年には、まだ見たことのない【得体のしれない大きな怪獣の遠吠え】に思えた。学生時代に読んだ、詩人、石原吉郎の「海を流れる河」という短いエッセイ。あのシベリアからの密林メッセージ(終焉があってはならない北上・南下)に近い、耐えられない景色・運命のような客体移動感覚を予感したかのように、シベリアからの「冬の塊・海林」メッセージを確認していた。

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